かぶり厚調査とは?
かぶり厚調査は、鉄筋コンクリート構造物の耐久性(寿命)と安全性を確保するため、極めて重要です。
かぶり厚さが不足していると、コンクリートの中性化が早期に鉄筋に達し、鉄筋が錆びてコンクリートのひび割れや剥落(爆裂)を引き起こし、建物の寿命を大きく縮めます。また、不足は火災時の耐火性能や構造耐力の低下にも直結します。
このため、調査を通じて、構造物が建築基準法で定められた最低限の品質と性能を満たしているか、また長期的な信頼性を保てるかを非破壊で確認することが、建物を守る上で不可欠となります。
調査手法とノウハウ
調査では、電磁波レーダ法または電磁誘導法を使用します。
【 電磁波レーダ法による調査方法】
電磁波レーダ法は、鉄筋の位置や配筋状態の全体像を把握しやすく、深い位置の探査や非金属の検出に適した手法です。
調査手順の概要
- 測定範囲の設定とグリッド(格子線)のマーキング
- 調査を行う構造物(柱、梁、壁など)に、探査範囲を定めます。通常、配筋状態を把握するため、一定の範囲(例:60cm × 60cm以上)を設定します。
- その範囲内に、X軸・Y軸方向の基準線と走査線(マーキング)を格子状に引きます。
- 比誘電率の推定(キャリブレーション)
- 電磁波レーダ法は、コンクリートの電気的性質(比誘電率)によって深さの計算が変わるため、事前に比誘電率を推定する作業が必要です。
- 比誘電率は、かぶり厚さが既知の鉄筋(設計図書などで確認できる場合や、試験的にコンクリートを削って実測した箇所)の反射時間を利用して算出します。
- コンクリートの含水率(水分の量)によって比誘電率が大きく変動するため、測定は可能な限りコンクリートが乾燥した状態で行います。
- 鉄筋位置の探査とマーキング
- 設定した走査線に沿って、探査装置(アンテナ)を移動(走査)させ、電磁波の反射波を記録します。
- 記録されたデータ(断面画像)を解析し、鉄筋の位置を特定してコンクリート表面にマーキング(作図)します。
- かぶり厚の測定
- 作図された鉄筋の位置を確認した後、かぶり厚の測定に適した走査線(かぶり走査線)を設定します。これは通常、鉄筋と鉄筋の間の中間位置など、隣接する鉄筋の影響を受けにくい箇所を選定します。
- 設定したかぶり走査線上で測定を行い、各測点の結果を記録・集計します。
【電磁誘導法による調査方法】
電磁誘導法は、比較的浅いかぶり厚に対して高い精度を発揮する手法であり、鉄筋径の推定が可能という特徴があります。
調査手順の概要
- 測定箇所の選定と鉄筋径の設定
- 調査を行う部材を特定し、測定箇所を選定します。通常、設計図書に基づき、かぶり厚さの不足が懸念される部材を選定します。
- 装置に測定対象とする鉄筋径を入力します。これは、高精度でかぶり厚さを推定する上で必須の操作です。
- 鉄筋位置の探査とマーキング
- 測定面にプローブ(センサー)を当てて走査し、磁界の変化が最大になる位置を探します。この最大値を示す位置が、鉄筋の直上(中心)です。
- 鉄筋の中心位置を見つけながら、コンクリート表面にマーキング(配筋状態の確認)を行います。
- かぶり厚の測定
- 電磁誘導法は、鉄筋の直上を直交方向に走査すると、正確な位置でかぶり厚が推定できるという特性があります。
- マーキングした鉄筋の直上をプローブで再度走査し、装置に表示されたかぶり厚さ(コンクリート表面から鉄筋表面までの距離)を読み取り、記録します。
- データ集計と合否判定
- 測定した全データについて、設計上の最小かぶり厚さとの比較や、測定値の平均値の範囲など、定められた判定基準に基づき適否の判断を行います。
また、電磁波レーダ法と電磁誘導法を併用することで、より効率良く調査することも可能です。
電磁誘導法で得られた高精度のかぶり厚の実測値を基準として、電磁波レーダ法の比誘電率補正(校正)を行うことで電磁波レーダ法による測定精度を大幅に向上させることができます。
その結果、広い範囲や深い位置の鉄筋に対しての調査が効率良く行うことが出来ます。
前述したように、電磁誘導法と併用することで高い精度の測定が可能となりますが、電磁波レーダ法を単体で使用する場合も、校正を行うことで精度の高い結果を得ることができます。
電磁波レーダ法による測定では、鉄筋までの距離を正確に算出するために、コンクリート内の電磁波の伝搬速度(比誘電率)を適切に設定する必要があります。
この校正手段の一つとして、躯体厚(コンクリート部材の全体の厚さ)の実測値を利用する方法があります。
- 躯体厚の実測:測定対象であるコンクリート部材の全体の厚さを、設計図書や貫通穴などを利用して正確に実測します。
- 電磁波の反射波の取得:電磁波レーダでコンクリート表面から探査を行い、コンクリート裏面(反対側の表面)までの深度を測定。
- 比誘電率の算出:計測された深度と実測した躯体厚の情報を元に装置を校正します。
これにより、そのコンクリートにおける正確な電磁波の伝搬速度が設定されるため、鉄筋など内部の反射物までの距離(かぶり厚さ)も高い精度で算出可能になります。
但し、この方法を採用するためには、躯体裏面(反対側の表面)からの反射波を明確に捉えることが可能な、十分な探査深度を持つ装置スペックが必要となります。躯体が厚すぎたり、装置の出力が不足している場合は、裏面からの反射波が弱すぎて校正に利用できないことがあります。
現場の実例①:受水槽室RC壁(かぶり厚・配筋の把握)
配管が近接し、作業スペースが限られる受水槽室のRC壁を対象に実施しました。


現場状況
屋内の受水槽室にて、配管近接の狭小空間。竣工図が不十分で、配筋状況とかぶり厚の把握が必要だった。
測定方法
電磁レーダ探査を用い、直交の複数ラインを走査。
電磁誘導法の測定値で比誘電率を合わせ、鉄筋位置・かぶり厚・径を解析。
測定結果(推定)
- 配筋:ダブル筋の可能性、ピッチ約200mm前後
- 鉄筋径:D13相当
- かぶり厚:最浅帯 約35〜45mm

備考
図面にない配筋反応を一部確認。定着筋・補強筋の可能性が考えられる。
まとめ
かぶり厚の評価においては、平均値ではなく、構造物全体で最も薄い「最浅値(さいせんち)」を起点とすることが原則となります。これは、建物全体の耐久性を、最もリスクの高い薄い部分が決定づけるためであり、潜在的な劣化リスクを抱える箇所を正確に特定するために不可欠です。
現場での調査を効率的かつ高精度に進めるためには、非破壊検査技術を効果的に組み合わせることが求められます。具体的には、電磁波レーダ法(広範囲を面で走査し、配筋の全体像と深度を把握)と、電磁誘導法(カバーメータ)(特定の点を高精度で測定し、鉄筋径とかぶり厚を正確に実測)を併用します。電磁誘導法で得られた正確な実測値を基に、電磁波レーダの比誘電率を現場で補正(校正)することで、測定全体の精度を大幅に向上させます。
設計図書が不十分な既存建物であっても、電磁波レーダ法と電磁誘導法といった複数の非破壊検査装置を効果的に併用し、適切な校正手法を適用することによって、内部の配筋状況と重要なかぶり厚の情報を確実かつ網羅的に把握することが可能となります。