この記事では、様々な材料の識別、計測が難しい状況への対処法、機械の点検、安全な作業手順といった実践的な知識を学ぶことができます。
電磁波レーダ法とは? ― 30秒でわかる概要
まずは、この方法で何ができるのか、どこを見てどう読めばよいのかを短く押さえます。
電磁波レーダ法の目的とできること
電磁波レーダ法は、コンクリート表面から電磁波を送信し、内部の鉄筋や空隙などの境界面で生じる反射波を受信・解析することにより、鉄筋・埋設管の位置やかぶり厚さ、コンクリート内部の変状を推定する非破壊試験手法です。
画像の基本:BモードとAモード
電磁波レーダ装置には、AモードとBモードの表示方法があります。
Aモードは、電磁波の反射を縦軸に時間(または深さ)、横軸に反射強度として示すもので、点ごとの反応を確認できます。
一方、Bモードは、走査した範囲を連続的に表示し、内部の状況を断面図のように把握できるのが特徴です。
両方を組み合わせて利用することで、コンクリート内部の鉄筋や空洞の位置をより正確に判断できるメリットがあります。
「かぶり厚さ」の定義
かぶり厚さとは、コンクリート表面から鉄筋表面までの最短距離をいいます。
鉄筋を錆や外部環境から守り、構造物の耐久性を確保するために重要であり、建築基準法などで用途や部位ごとに最小値が定められています。かぶり厚さが不足すると鉄筋腐食やひび割れの原因となるため、適切な厚さの確保が求められます。
電磁波レーダ法の活用シーン6選
ここでは、電磁波レーダ法を現場で使う際に「よくある」「困りやすい」場面を6つに分けて、それぞれの読み取り方、注意すべき点をご紹介します。
① 配筋位置・かぶり厚さの確認
反射物が金属の場合(Σ₁:コンクリート<Σ₂:金属)
コンクリート中に鉄筋、配線、鋼管などの金属の材質がある場合、表面方向から最初のピークが右側になります。これによりコンクリートより大きい比誘電率を有する材質であると推定できます。
※「最初のピークが右側」と記載していますが、コンクリート中の状況によっては、右側に振れる波形の高さが低くなることもあります。
電磁波レーダの一般的な活用として、鉄筋の位置やかぶり厚さの確認があります。
施工時に鉄筋位置を把握することで、鉄筋切断事故を防ぎ、構造物の耐久性と安全を守ることにつながります。
また、かぶり厚さを調べることで、構造物の健全性を確認することができます。
構造物の安全を守るために欠かせない調査といえます。
② 金属配管・鉄筋の識別
反射物が金属の場合(Σ₁:コンクリート<Σ₂:金属)
コンクリート中に鉄筋、配線、鋼管などの金属の材質がある場合、表面方向から最初のピークが右側になります。
これによりコンクリートより大きい比誘電率を有する材質であると推定できます。
※「最初のピークが右側」と記載していますが、コンクリート中の状況によっては、右側に振れる波形の高さが低くなることもあります。
鉄筋・金属配管などの金属製の埋設物を識別する場合、いずれも強い反応を示しますが、その特徴を比較することで区別が可能です。
まず、鉄筋は一定の間隔で規則的に配列されていることが多く、反応も同じ深さで繰り返し現れます。一方、金属管は配管経路に沿って連続的に反応が現れ、鉄筋とは異なる走行方向を示す場合が多いです。
また、反応の強さにも特徴があります。金属管は鉄筋よりも断面積が大きいため、同じ深さにあれば鉄筋よりも強い反射波として現れます。
「配列の規則性」「走行方向」「反応の強さ」といった要素を組み合わせて観察することで、金属管と鉄筋を区別することができます。
③ 非金属管の推定
反射物が非金属の場合(Σ₁コンクリート>Σ₂:空洞)
コンクリート中に空洞などの非金属の材質がある場合は、表面から最初のピークが左に振れます。
これによりコンクリートよりも小さい比誘電率を有する材質であると推定できます。
※ここでいう非金属とは空洞(空気)を示しています。水は非金属ですが、反射波形は右側に振れます。比誘電率の大小関係で反射波形が振れる方向が変わります。2ページの比誘電率一覧表を参照してください。
電磁波レーダ法で非金属管を推定する際には、鉄筋のように強い反射が得られないため、比較的弱い特徴をいくつか組み合わせて判断します。Bモードの断面表示では、管の位置に沿って浅く弱い双曲線の反応が出ることが特徴です。また、Aモードを確認すると、波形がわずかに左に強く振れています。
同じ深さにある鉄筋と比べると反応が明らかに弱いため、鉄筋との対比が判断の助けになります。さらに図面の配管経路と照らし合わせることで、より非金属管の有無が判断しやすくなります。
④ 空洞の識別
空洞も非金属管と考え方は同じです。
Aモードの波形はわずかに左に強く振れる傾向があります。
ただし、ブロック塀のような円柱上の空洞ではない限り、双曲線で表現されることはありません。
空洞の有無を判断する場合、空洞部と健全部を比較し、全体を見渡すことが必要となります。
⑤ 躯体厚・背面反射の確認
空洞の識別と同じ原理で躯体厚や背面反射を識別することが出来ます。
躯体厚の反応は、コンクリートと空気との境界(空気層の反応) によって生じます。
そのため、鉄筋や配管よりもさらに奥に連続したラインとして表示されることが特徴です。
その反応は局所的なピークではなく、比較的なだらかな形状を持ち、広がりのある連続波として表示されるのが特徴です。Aモードでは空気層に変わる箇所が左振れのピークを指しており、躯体底面までの時間を確認することが出来ます。
⑥ 電線・CD管の事前把握
電線・CD管の切断事故を防ぐためには、事前に配管ルートを予測することが重要です。
電線やCD管は斜め敷設や鉄筋直下の例があり、見落としから破断に至るリスクがあります。
作業前にボックス開口で本数・向きを目視。可能であれば、図面を確認しましょう。
危険部と予想される部分をマーキングして共有することで、調査 → 施工までの情報伝達が円滑になり、チーム全体で危険箇所を把握できます。その結果、施工時の鉄筋切断などのリスクを低減することが可能です。
難条件での対応(密配筋・水分多量)
判定が難しい場面ほど、焦らずに全体を把握するようにしましょう。密配筋の現場では、配筋間隔が狭いことで頂点の識別が難しくなります。
また、双曲線同士の反応が重なることで配筋間の反応が強く表示され、配筋位置を誤認する危険があります。
その場合、「配筋は規則的に配列されている」ことを意識し、判別可能な箇所から順に識別していきましょう。
双曲線の頂点ではなく、裾部分を利用して判別することも有効です。
また、コンクリート内の水分が多く識別が難しい場面もあります。
可能なら時期を調整し、実施した場合は結果を慎重に扱い、別手法や再走査で確認を重ねてください。
水分の影響を受けない「電磁誘導法」を用いた装置を使用することも有効です。
現場に持ち込む機材チェックリスト
装置の基本性能と点検の“型”をそろえると、読みの再現性は一段上がります。ここでは要点を短く共有します。
装置の構成(規格準拠)
現場の要件に見合った装置を用意します。
浅部のピッチが広い配筋を探査するだけで良いのか。非金属の配管や空洞調べる必要があるのか。などの要件に応じて装置を選定します。
密配筋や深部の埋設物を探査する場合、要件に見合った性能の機種(ADSPIRE 01など)を選定しない場合、見落としのリスクが高まります。
要求性能(抜粋)
原則として、使用する電磁波レーダー機器は、日本非破壊検査協会規格 NDIS 3429 の 要求性能2 に準拠した製品である必要があります。
なお、校正サポートが終了した機器も使用できますが、その場合は注意が必要です。精度を保証する書類が発行できないことがあるため、使用前に機器の状態を確認するようにしてください。
点検・校正(管理ルール)
年次の校正証明書を用意することで、装置本来の性能が維持されていることを示すことができます。また、現場で校正証明書を提示することで、発注者・受注者間で、正常に動作している装置が使用されているという共通の認識を得ることが可能です。
日常点検の具体
現場で電磁波レーダーを使用する際は、常に正確な測定ができるよう日常的な点検が欠かせません。
まず、校正証明書の期限を確認してください。機器の校正証明書は基本的に1年間の有効期限が設定されており、期限が切れている、あるいは期限が迫っている場合は、再校正を行うことを推奨しています。
また、走行させて測定を行うため、走行性能の確認も重要です。もしタイヤが曲がっていたり、回転が悪かったりすると、距離計にズレが生じてしまい、正確な測定データを得ることができません。測定を開始する前には必ずタイヤの状態をチェックし、不具合がないことを確認してください。
スキャン手順と安全確保のポイント
測線の選び方
横筋の中間に走査線を設定します。埋設物に対して、直交走査で交差確認するのが基本です。
縦筋の真上または近くを走行した場合、反射が干渉して読みが難しくなることがあるため、避けるようにします。
走査とカーソル操作の基本
走査は一定の速度で行うことが基本となります。
速度が速すぎる場合に「データ抜け」を起こすことがありますが、探査モードを変更することで走行速度に対応することが可能です。
また、測定したデータに対してカーソル操作を行うことで埋設物の深さや位置をより詳細に調べることや金属・非金属の判別が可能となります。
重要な箇所ほど詳細に調べることでリスク低減に繋がります。
電線・CD管のリスク低減
電線やCD管の切断事故を防ぐには、事前に配管ルートを予測することが重要です。斜め敷設や鉄筋直下にある場合もあるため、見落としによる破断リスクがあります。作業前にボックス開口で本数・向きを確認し、可能であれば図面もチェックしましょう。
判断が難しい場面ほど、結論は急がずに情報を集めることでリスク低減に繋がります。
判読の基本:双曲線波形を見分ける
電磁波レーダーの画面解析において、より精度高めるには、Bモード画面とAモード画面の波形を同時に確認することが有効です。
特に、それぞれの画面が持つ特性を活かし、相互に補完し合うことで、一つの画面だけでは見逃してしまうような微細な情報や、判断が難しい波形の意味を正確に読み解くことが可能になります。
まずは“山形”を読む
密配筋のように波形の強弱が入り混じる複雑な状況では、波形全体を読み解くことが重要です。
特に、双曲線の裾の部分が重なり合うと、その箇所で反応が強くなり、本来の頂点と誤認してしまう可能性が高まります。安易に画像の強い部分だけを頂点と判断してしまうと、誤った位置を特定する原因となります。
金属/非金属・空洞の傾向
電磁波レーダ法では、内部構造の材質や状態によって反応の特徴が異なります。金属はAモードで波形が右に振れ、明瞭なピークとして現れます。Bモードでは断面上に強い反射として表示され、鉄筋や金属管の位置や形状を直感的に把握できます。
非金属はAモードで左に振れ、金属ほどはっきりとした反応は出ません。Bモードでは弱めの反射として現れ、周囲と比較しながら判断します。
空洞もAモードでは左に振れますが、形状はさまざまであるため、空洞部と健全部を比較して有無を判断する必要があります。Bモードでは双曲線状の反応として現れ、位置や大きさを確認できます。
これらの反応傾向を理解し、Aモード・Bモードを組み合わせて使用することで、内部構造を正確に把握することが可能です。
電磁波レーダ法に関するよくある質問
現場で詰まりやすいポイントを、運用の言い回しに合わせて短く整理します。
Q1. ピッチが狭く双曲線の頂点が読みづらいときは?
双曲線の頂点だけに注目するではなく、双曲線全体を把握することで判断がしやすくなります。判別可能な双曲線を軸に、裾部分の反応を見ることがポイントです。
また、波形自体が潰れて見えている場合や反応が薄い場合は感度設定を見直す必要があります。
Q2. かぶり値が揺れるときは?
Q3. 解析できない測線が出るときは?
横筋の中間を優先し、読めるラインへ切り替える判断が有効です。
複数のラインを走査することで取得できる情報量が増えるため、全体としての解析精度が向上します。
そのため、仮に一部のラインで解析が難しい場合でも、他のラインから得られた情報を組み合わせることで判断が可能となります。
Q4. 脱型直後や雨天直後で測定が不安定なときは?
高含水は難条件。測定時期を遅らせるのがいちばん確実です。やむを得ず実施するなら、水分の影響を受けない「電磁誘導法」を用いた装置を使用することをおすすめします。
Q5. 空洞を見つけたい時は?
躯体の全体像を把握し、比較することで傾向をつかみます。
空洞単体を判断するのではなく、有無による反射波の違いで判断する必要があります。
まとめ
今日から現場で電磁波レーダ法を活かすための次の一歩
一番伝えたいのは、「基本作法の徹底が現場品質を守る」ということです。
現場での判断を支える道具と手順を、これからも実務に即して磨き続けます。